氷の花の香りは
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母と共に行方をくらませていた姉姫。 ずっとひとりぼっちだった妹姫。 そして、その二人を守り育む騎士たち。 生き別れた帝国の皇女たちはその立場に葛藤し、反発しながらも、母の遺した「香り」に導かれる。 姉と妹、騎士たちの絆を描くロイヤルファンタジー。 TRANSPORTERシリーズの前日譚(未読でも大丈夫です)。 <本の仕様> A5 2段組み 88ページ 500円 <作者> 文/みすてー 絵/あほいすぃ(https://www.pixiv.net/member.php?id=93006) <関連作品> ・皇女殿下の競走馬 ・TRANSPORTER
◆本文抜粋◆
帝国劇場の貴賓席。 舞台袖の二階席。レースのカーテンが周囲を覆い、曲線美が豊かな彫り物を施されたテーブルと上等な革でしつらえた椅子が二つ、もうけられていた。 ちいさなラウンジとして、くつろいで観賞できる特別席だ。 横からの視線になるので視界や音響が優れているとはいえないが、中二階として設けられており、一般客席からはのぞけない仕組みになっている。 貴族や皇族たちの逢瀬。あるいは政治や外交の秘密裏の会合につかわれる傾向がある。 そんな秘密の小部屋に通され、青い髪の少女は相手を待っていた。 肩で切りそろえられた、鮮やかな青い髪。そして、群青色の瞳。 その蒼さを人はロイヤルブルーと呼んだ。帝国皇室だけが受け継ぐ、髪と瞳の色。 従者もつけず、ぽつんと立っている。手ぶらでやってきたため、手持ち無沙汰を感じ、手すりに手をかけて一般観客席と舞台を覗き込む。 ちょうど歌手が現れ、拍手が沸き起こる。 どこからどうやって照らされているのか。青い髪の少女にはまったくわからなかったが、舞台を照らすスポットライトが女性歌手を艶やかに染め上げる。 明かりが消され、徐々に薄暗くなる。天井の高いホールに響く歌手の挨拶。 魅力的なステージパフォーマンス。 それらすべてが少女にはとても新鮮で、心奪われるには充分だった。 やがて、張りのある伸びやかな声で歌いはじめる女性歌手。 彼女の着ているドレスは体のラインに合わせた薄手のワンピース。桃色の髪に合わせて赤系の色合いだ。胸元のシルバーアクセサリーがライトの光を反射する。 感情をしぼって、語りから入るバラード。 はじめてみる舞台、はじめてみる歌手、はじめて聞くプロフェッショナルの歌声。 そして、客席がひとつの意志の様に集中して聞き惚れる一体感、それを最高級のドレスを着て、特別の部屋を与えられてというゼイタクな観賞。 はじめてづくしの体験に頬が染まり、胸の高まりが止まらない。 彼女の青色の髪にあわせ、白系でまとめられたワンピースのドレス。 肩を出し、襟や裾をフリルで包んで、正直照れくさい。 ――まるでお姫様だ。 青い髪の少女――ミストはそう思ってみたが、ふと頭をかしげる。 ――そうか、お姫様になるってこういうことか。 自分の胸元には拳大の宝玉が鎮座している。そのこと以外はそれこそ、お姫様の立ち位置だった。 一曲目がフェードアウトする。